
電気化学測定装置(ポテンショスタット・ガルバノスタット)をご活用いただいています。
インタビュー : 2026年1月8日
都市環境学部 環境応用化学科 / 先端触媒反応分野 研究室

研究テーマ
・電気化学を基盤とした、カーボンニュートラルの実現
・環境負荷低減に貢献する触媒材料の研究開発
研究室紹介
東京都立大学・先端触媒反応分野は、天野史章教授が主宰されている研究室です。
天野教授は、米国スタンフォード大学およびElsevier社による研究評価において、被引用数などの客観的指標に基づき選出される「世界トップ2%科学者」に選出されており、国際的にも高い評価を受けている研究成果を数多く発表されています。
今回インタビューにご協力くださいました下山先生は、本研究室において、電気化学を基盤とした触媒研究をご担当されています。電極触媒の設計および電気化学的評価を中心に、基礎的な反応理解から将来的な応用展開までを見据えた研究に取り組まれています。また、実験および解析の現場を担う研究者として、研究活動の中核を支えておられます。
本インタビューでは、現在取り組まれている研究内容や、研究に対するお考えについてお話を伺いました。
Q:現在取り組まれている研究内容について教えてください。
A:学部生の頃から無機・錯体化学、電気化学、有機化学と様々な分野に携わってきましたが、現在メインで取り組んでいるのは電気化学分野の触媒開発です。特に、ポリオキソメタレートと呼ばれる、アニオン性の金属酸化物クラスターとカーボンナノチューブやグラフェンといったナノカーボン材料を中心として、新たな触媒材料の開発を行っています。
Q:現在の研究につながる、これまでのご経歴・背景を教えてください
A:学生時代は、窒素含有カーボンを用いた燃料電池用触媒の研究、有機金属錯体を用いたクリーンなクロスカップリング反応の研究、ポリオキソメタレートをはじめとする分子性イオンを用いた多孔体合成と触媒機能の開拓と触媒研究を軸に様々な研究テーマに触れていました。博士卒後は民間企業で電解技術の開発研究に従事させていただきました。その後、電気化学分野の研究・教育にも携わりたいと考え、名古屋大学で、空気中の窒素からアンモニアを電気化学的に合成するプロジェクトにたずさわりつつ、学生指導を行っていました。プロジェクト自体は極めて高難易度の反応を扱うもので、「実験の再現性」や「何ができて、何ができないのか」を見極めることの重要性を改めて実感しました。また、自身のテーマとして、学生さんとともにポリオキソメタレートやナノカーボンを用いた研究の立ち上げを行い、現在の研究につながっています。
Q:研究の社会実装の可能性についてお聞かせください。
A:現在は材料開発を中心とした基礎的な研究を中心にしています。そのため、ここから数年で社会実装には至らない可能性が高いです。一方で、電解技術は再生可能エネルギーと連動した運転が可能で小型分散性も高いため、必要なものを必要な量だけ必要な場所で合成できることが大きな強みです。また、研究対象にしようとしている電気化学反応(水分解、小分子の活性化、硝酸イオンの還元など)はカーボンニュートラルに資する反応です。
たとえば、製鉄業などで排出される高濃度の硝酸イオン含有排液の処理は既存の微生物処理プロセスが苦手とする領域ですが、電気化学反応ではむしろ得意な領域です。そのため、既存技術を補完する形で社会実装できる可能性があります。
開発した材料の性能、安定性、経済性が一定レベルに達すれば企業との共同研究やその先の実証フェーズにつなげられると考えています。産業利用されている化石燃料の利用を前提とした既存の技術・プロセスは極めて高度に最適化されたものです。化石燃料の優れたエネルギー密度や経済性もあいまって、既存技術を完全にカーボンニュートラルを目指した新技術で置き換えるのは困難です。少なくても数十年以上の長い時間と多額の資金投入が必要だと考えています。一方で、二酸化炭素排出量の削減は緊急を要する課題であるのも事実です。
電解技術の利点を最大限に発揮できる領域で社会実装を進め、カーボンニュートラルに貢献するとともに、産業応用のためのノウハウ、技術課題の発見・克服を積み重ねることが重要だと考えています。
「カーボンニュートラルへの現実的なアプローチ」
先生の研究テーマは、カーボンニュートラルやSDGsと深く結びついています。 過度に楽観的な見通しを持たず、現実的に考える姿勢を大切にされていると感じます。一方で、すぐ実用化できなくても誰かが研究を続けることが重要である、というお話も聞かせていただきました。
先生のこの研究観は学生指導にも受け継がれています。
AI時代の研究・教育モットー
Q:ChatGPTなどのAIツールについてはどう考えていますか?
A:使わない手はないと思います。既に、使いこなせると便利というフェーズから、使いこなせることが前提のスキルになりつつあると感じています。ここ一年ほどでの進歩が目覚ましく、ChatGPTで4や4oと現在の5.2 thinkingでは全く別物という認識です。翻訳、文章作成・添削はもちろん、deep researchを用いた調査や研究の壁打ち相手としても使用しており、非常に役立っています。
学生にも(情報セキュリティを守った上で)使用することを推奨しています。ただし、自分で考えるというプロセスを省略して使い続けるのは長期的には良くないと考えています。まず、手元の結果や情報をもとに「考えても分からない」にたどり着くまでは考える、そのあとに相談するというルーティンで使うようにしています。
Q:学生指導で特に大切にしていることは何ですか?
A:「自分だけが出来る、分かっているだけでは意味がない」ということです。学生が育ち、その学生がまた次の世代に知識や技術を伝えていくことが社会全体の力になると思っています。まだ現場で自ら手を動かせる時間があるので、出来る限り自分も実験をして現場感が鈍らないように気を付けています。現場で見てこそわかること、気づけることがあるため、学生の実験の様子も見ながら気づいたことを伝えるようにしています。また、私自身も実験に失敗することが当然ありますので、スマートに上手くやっている部分だけでなく、上手くいかなかったことやその原因も見せられるようにしています。
Q:今後の目標を教えてください。
A:将来的には研究者として、自身の研究室を持ちたいという思いもあります。そのためには、成果も出していかなければなりませんので、まずはコツコツと研究を進めていきたいです。そして研究を通じて学生が育ち、その人たちが社会で活躍してくれることが、一番大きな成果だと思っています。自分一人では一人分の仕事しかできませんが、学生が5人育てば、その分だけ社会に貢献できる力が増えます。そういう人材を育てることが、教育に携わる意味だと思っています。
先生は、研究を通じて学生たちに情報を集める/生み出す力と判断力を身に着けてほしいともおっしゃいます。将来、「新しいものを創造する力」は企業や研究現場でとても大切ですが、「自ら情報を集める、生み出す力」、「情報をもとに、YesかNoかを判断する力」は更に汎用性のあるもので、社会全体の力になる人材育成を通じて社会に貢献することを大切に考えています。
導入機材
Q:ポテンショスタットはどんな実験に使っていますか?
A:サイクリックボルタンメトリー、定電流測定、定電位測定、交流インピーダンス測定などの電気化学測定にポテンショスタットを使っています。
研究テーマとして、ポリオキソメタレートとカーボン材料を使って電極触媒を開発するというものを立ち上げています。まず触媒のもとになる前駆体を調製して、それに様々な前処理を行います。前処理の条件を変えることで、触媒の電気化学特性を少しずつ変えることができます。このように得られた材料の初期評価として、サイクリックボルタンメトリーで、酸化還元応答を調べたり、水素発生反応などの基礎的な反応に対する触媒活性を調べたりして、前処理条件ごとの電気化学特性の変化を大まかに把握します。その後、様々なキャラクタリゼーションで前処理条件―材料物性―電気化学特性を関連付けます。特に性能が良かったもの、興味深い結果となったものは、定電流測定や定電位測定、交流インピーダンス測定など一通りの電解試験を行っています。
Q: Plus(1A)と Penta(5A)は、どのように使い分けていますか。
A:H型セルを用いた電解では1cm2程度の電極を用います。そのため、Plus(1A)のポテンショスタットで十分に測定ができます。一方で、燃料電池セルや水電解セルのようないわゆるフルセル試験では、4から25 cm2の電極を用いるため、大電流の扱えるPenta(5A) を活用して測定を行っています。 水電解など1 A/cm2を超える高電流密度で電解を行う系では、数十Aの大電流を扱えるポテンショスタットが必要ですが、研究室レベルの初期検討では、5 Aを扱うことができれば十分な評価が可能です。H型セルなどを用いた小スケールの検討ではPlus, スケールアップしたフルセル試験ではPentaと用途に応じて使い分けています。
Q: 使用感・操作感はいかがですか
A:Squidstatは、パルス測定やインピーダンス測定を含め、研究で必要なメソッドが一通り揃っており、プロトコルを自由に組める点が非常に使いやすいと感じています。 操作が直感的なので、基本を教えれば学生でも問題なく使えます。 パラメータの意味を理解し、自分でプロトコルを組むことで、「なぜこの条件で測定するのか」を考える訓練にもなっています。
最後に
インタビューでは、研究を通じて未来の技術を探り、教育を通じて未来の担い手を育てる。
その両輪で、社会に貢献していく先生の価値観まで率直にお話いただきました。
下山先生、貴重なお時間を誠にありがとうございました。




